人生報告書

嘘を信じないで、見抜いて

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帰宅した私は、自室で封筒の中身を確認した。
換気のために開けていた窓から雨風が吹き込み、お気に入りのラグとカーテンを湿らせていた。
母親は疲れたらしく、「今日はもう寝る」と言い残し寝室に篭ってしまった。

書面の内容は衝撃的だった。

海香はもう死んでいる。
そして、癌で亡くなったはずの父は自殺だという事。ショックで記憶を喪失している事。
全身がガタガタと震え、現実を受け入れたく無いと身体が拒絶する。
あの夏休み、私は海香とよく遊ぶようになった。海香は引っ込み思案な私の事を連れ出して、砂浜や林で遊んでいた。毎日同じ景色に飽きてしまった私たちは、度胸試しをすることになった。私は最初反対したが、二人とも負けず嫌いな性格が災いし、絶対行かないよう言われていた岸壁に向かった。ルールは簡単で、岸壁と岸壁の間をジャンプするという遊びだ。シンプルだが、落ちたら波飛沫を立てる海に真っ逆さまである。幸い私は身体能力に恵まれており成功した。でも海香は…。
私は焦って帰宅したところを父に見つかってしまった。警察官の父にはお見通しで、何があったか説明するように言われ泣きながら謝った。岸壁に行ったことは酷く叱られたが、「友達の事は父さんが何とかする」と言い、私を強く抱きしめた。
それから、たまにしか父が家に帰ってこなくなった。
「仕事が忙しいんだ」父と会うたびに少し痩せているような気がした。
あるときから父は家に帰ってこなくなった。
母からは父に癌が見つかり、かなり危ないから入院していると知らされた。亡くなったと知らされたのはそれから数週間後の事だった。
父は癌ではなく、自分が事件を隠蔽した事に耐えきれず自殺したのだと思う。正義感の強い父の事だから、きっと…

全て目を通す頃には、意外にも事実を受け入れつつあった。だが、私は明日からどうすればいいのだろう。母親には何と言葉をかければいい?

ねえ海香、こんな時どうしたらいいの?

開け放たれた窓からは、真っ赤な夕焼けが町中を染め上げている。私は一歩ずつ、その灼けるような光に向かって歩き出した。