人生報告書

嘘を信じないで、見抜いて

2

朝刊の入る音で目が覚める。
外はまだ夜の装いで、遠くの山並みをオブラートのような薄明が包んでいる。
私の日課は早朝5キロの軽いランニングから始まる。少ないと感じる人もいるだろうが、バレーの朝練があるので無理は禁物だ。シャワーを浴びて制服に着替える。そして朝食を食べる。それが終わってからようやく学校に行く準備を始めるのだ。
「いってらっしゃい」
玄関で靴を履いている時に後ろから声がかかる。振り返ると母が立っていた。
「うん、いってきます」
挨拶をしてドアを開ける。いつもなら遅刻魔のまなみの家に向かうが、もう不要なことにも寂しさを感じる。そんなことを思いながら一人で登校する。
私は今日から私立明海女子学園の高等部に編入する。この通称アケジョは、幼稚舎から大学まで備わった私立の教育機関。私のように外部から編入するのは珍しく、試験も難関とされている。私がここを選んだ理由は二つある。一つはバレーの強豪校であること。もう一つは海香と同じクラスになれる可能性が高いからだ。
どうやら、同じ中学だった人間は一組に集められているようだが、当然のごとく仲の良い人は誰一人いない。
しかし、今更不安には思わないし、これから作ればいいだけの話である。
そうこうしているうちに教室に着いた。黒板には座席表が貼ってある。自分の席を探すため辺りを見渡す。すると窓際の一番後ろの机の上に印刷のようにきれいな字で書かれたネームプレートを見つけた。
その文字を確認する。どうやらここが私の座席らしい。しかし、彼女――美波海香の姿はどこにも見当たらない。彼女は中等部から内部進学のはずだ。別のクラスなのだろうか……。
それから数分後担任らしき先生が現れ、朝のHRが始まった。
「えー、皆さんごきげんよう。これからよろしくお願いしますね。早速ですが、自己紹介でもしてもらおうかしら?」
生徒達は順番に名前を言っていき、最後に私になった。
「えっと……初めまして。凛月…ひめと言います。趣味はバレーボールです。部活はバレー部に入る予定です。よろしくおねがいします。」私は少し恥ずかしくなって俯いたまま着席した。クラスの人達からの視線を感じる。
「じゃあ次は……」
HRも終わり、ふと窓越しに正門から続く中庭に目をやる。
そこには美しい顔立ちをした少女がいた。海香だ。
3年前からほとんど変わらない容姿の彼女が愛おしい。無意識に涙が溢れそうになるのをぐっと堪え、あることに気づいた。
海香は松葉杖をついていたのだ。